「棟梁」を読んでみた。

技を伝え、人を育てる 棟梁 (文春文庫)

技を伝え、人を育てる 棟梁 (文春文庫)

読んだ本:棟梁
著者:小川三夫(聞き書き:塩野米松)

この本は、雑誌「道(どう)」に掲載された宇城氏との対談で知った。
小川さんは、宮大工の棟梁であり、何人もの職人の大工をたばね、数多くの建物を作ったばかりでなく、多くの弟子を育て牽引したリーダーである。

対談の内容だけに飽きたらず、実際に本も読んでみたのだが・・・

正直、組織論、教育論、リーダー論、仕事論などに関する本をいくつかつまみ食いで読んできたけれど、これらの本質的なことはすべてこの本に凝縮されていると言って良いぐらい得るものの多い本だった。

なにしろ書いている(語っている)人が本物だ。
何百年という時の洗礼を経て、なおも朽ちることなく残り続ける物を作る宮大工。
拙速リリース&バージョンアップ、という現在の世の中の流れとは全く異なる、一度建てたら後戻りのできない世界。
この世界に生きる棟梁にごまかし、妥協は許されず、凄まじい厳しさがそこにはあった。

一方、小川さん本人の大工としての腕前もさることながら、鵤工舎という学び舎でたくさんの弟子を育てた実績もある。
徒弟制度、日常生活をずっと共にして10年経ってやっと一人前。
どっぷり浸かることでしか学べない”本物”を継承している。
まさに修業の場。現代の世の中に非常に少なくなった場所なんだと思う。

技、思い、人、伝承していく重み。
生きた証を何か残したい、という若者もたくさんいると思うけれど(もちろん自分もその一人)、
檜造りの何百年もびくともしない宮という「物」を造り将来に残していき、後世に「技術」と「思い」を伝え、更に「人」を残す小川さんの生き様はまさに理想と言えるのではないだろうか。

心に残った文章を全部紹介してしまうと異常な分量になってしまうので、以下、本当にエッセンスの部分だけピックアップして感想を書いた。
この手の本はハウツーではないので手に取って読んで自分の心で感じるのが一番です。
(いつも言ってますが笑)

まずは棟梁そのものの資質、つまりリーダー論関係。

言葉にできんことを覚えてもらうには、やってみさせるしかないな

黙してただ背中で語る棟梁。男としてカッコ良すぎる。しびれます。


次は、小川さんの師匠の言葉。これが一番響いた。
というか、リーダーに必要なことはもうこれに尽きるんだろうと思う。
全然自分とは程遠い世界なのであくまで想像に過ぎませんが。

「百工あれば百念あり。これを一つに統ぶる。
これ匠長の器量なり。
百論一つに止まる。
これ正なり。」
「百論一つに止める器量なき者は謹み畏れて匠長の座を去れ。」

至言。


鵤工舎など、組織論関係。

鵤工舎は学校じゃない。
賃金をもらって働く会社でもない。
自らの意志で学ぶところやからな。

自分が所属している部活もまったくこれと同じだ。
勝っても一銭の得にもならない。だからこそ、本気で目標に向かってやることに価値がある。

責任は人を育てる。
立場というもんがあって初めて自覚することもある。
人に指示されておったのが、指示するようになって気づくことも多い。
(中略)
順番に上が抜けていくから常に試練の状態が鵤工舎にはあったんだな。
これがあれば組織は腐らねえよ。

入社予定の会社の元社長、南場さんがプロフェッショナルで言ってたのを思い出した。
中心人物だからこそ、敢えて引き抜く。そうすることで、周りが育つ。

最後は仕事論、および人生論関係。

(やめていく弟子もたくさんいるが・・・というくだりで)
簡単に言えば、嫌ならやめるか、我慢して仕事に没頭するか、どっちかや。(中略)逃げたらあかん。逃げる前に考えるんやな。

散々言われることですが、改めて。
環境のせいにしないという覚悟、姿勢の大切さ。

弱いやつは群れを組んでなにかと一緒に行動したくなるが、そういうのはうちでは禁止や。あれは弱さを隠すための手段や。

耳が痛い。

三十代の生き方は二十代、修業の時代に身につけておかねばならない。
取り返せない修業時代は本当に大事やで。

わかりましたー!!!!!
会社説明会で南場さんも同じようなこと言ってた。
「働き始めの成長度合いの傾きは意外にその後に影響する」と。

この本、あまりに自分が選んだ会社の元リーダー南場さんの言葉とシンクロして、ビビった。

小川さん本人も、小川さんの生き様も、小川さんが作った組織も、すべて男としてかっこいいと思う。憧れる。そうありたいと思う。
でも、そっちの道で生きるとしたら、本当にしんどい世界が待っている。

嘘、言い訳、妥協のない修行の世界。
逃げたくなることばかりなんだろう。

そういう世界に飛び込んで、踏ん張って、やっとそうなれる。
そこを忘れちゃいけない。

技は長い鍛錬と自己規制の後に身体に形成される。

と文章中にあったが、まさに自己規制。
進歩成長の裏にはそれ相応の我慢が不可欠。


ちょっと気を抜けばすぐ易きに流れる自分を、放っておかない。
その都度戒める姿勢が大事なんだよな。
でも難しいよなぁ。


そんな感想です。
興味があれば是非ご一読を。
少なくとも、京大アメフト部を卒業した人にとっては、自分を顧みる良いきっかけになるかもしれません。

以上。